記事メッセージ
感情知能は実在する。ただし宣伝されているほど大きくはない
感情知能とキャリア、そして職場のコミュニケーションをめぐる30年分の研究。持ちこたえるもの、静かに崩れるもの、そして私自身の書き方を変えた、たったひとつの発見。
文 Samet Durgun · Subtextの共同創業者 · 11分で読めます
数か月前、私はある数字を探しはじめました。
たぶん、あなたもどこかで見たことがあるはずです。ソフトスキルについてのLinkedInの投稿を2つ開けば、1つには出てきます。傑出したリーダーと平凡なリーダーを分けているもの、そのとてつもない割合を感情知能が占めている、という例のあれです。90%。あるいは85%。数字は、そのワークショップを売っているのが誰かによって揺れます。
関心そのものが本物なのは、公平に見て確かです。世界経済フォーラムが2025年に、中核となるスキルは何かを雇用主へ尋ねたとき1、共感と傾聴は上位10位に入り、リーダーシップと社会的影響力は、分析的思考とレジリエンスに次ぐ3位でした。この話題を誰かが捏造したわけではありません。
ただ私は、あの数字がどこから来たのかを知りたかった。送る前にメッセージの感情的なトーンを読み取るツールをつくっている人間が、自分では一度も確かめていない統計を口移しで繰り返しつづけるのは、さすがにまずいと思ったからです。
たどり着くまでには時間がかかり、しかも妙な場所で見つかりました。その話は後ほど。
ひとつの名前を、4つの別物が共有している
まず驚いたのは、感情知能とは何かについて、研究者たちの意見が一致していないことでした。細かい言葉づかいの話ではありません。「これらは別の構成概念だ」という水準の話です。
Peter SaloveyとJohn Mayerは1990年に、これを一連の心的能力として定義しました。感情に気づくこと、感情がどう混ざり合い変化するかを理解すること、感情を使って考えること、そして感情を調整すること。この版は、正解と不正解のあるパフォーマンステストで測られます。感情版のIQテストのようなものです。
その後、Daniel Golemanの1995年の本がこの言葉を有名にしました。彼の版には、どう見てもパーソナリティや動機づけに近いものが束ねて入っています。Reuven Bar-OnのEQ-iやKonstantinos Petridesの特性モデルは、自己申告式の質問紙です。Petrides自身、自分が測っているものは知能の隣ではなくパーソナリティの内側にあると、かなりはっきり述べています。
研究者たちは最終的に、この混乱を3つの流れに整理しました2。パフォーマンステスト、能力モデルの自己申告尺度、そして混合コンピテンシーモデルです。厄介なのは、能力テストと自己申告テストが、互いにほとんど一致しないことです。誰かが「研究によれば感情知能はXを予測する」と言ってきたとき、最初に効く問いは、その4つのうちどれの話ですか、というものになります。
実際の効果量は、売り文句よりずっと小さい
私が見つけたなかで最大の近年の統合研究は、78,159人から得られた253の効果量をまとめています3。30年分です。統計的な補正をかけたあとの報告値は、こうなります。
職務成績はおよそ0.30。職務満足は0.29。組織市民行動は0.36。職務ストレスはマイナス0.43。組織コミットメントは0.26。
相関0.30というのは、職務成績のばらつきのおよそ9%と感情知能が重なっている、という意味です。これは本物の関係です。同時に、「リーダーの優秀さの90%を説明する」からは果てしなく遠い。この分野で先に出た画期的なメタ分析4 も、3つの測定の流れすべてで、だいたい同じ大きさを見つけています。
書き留めておく価値のある点をひとつ。同じ2022年の論文は、感情知能と職務成績の相関が、未公刊の研究より公刊された研究のほうで低いことを見つけています。ふつう、公刊バイアスは逆向きに働きます。これをどう受け取ればいいのか私にはわかりませんし、見たかぎり著者にもわかっていません。
仕事の中身しだいで、話はまるで変わる
0.30をのっぺりした事実としてしまい込む前に、ほとんど語られない調整変数がひとつあります。
JosephとNewmanは191の職業を5、その仕事が実際にどれだけ感情の調整を要求するかで分類し、グループごとに分析をやり直しました。感情労働の多い仕事、つまり顧客や対人接触が絶えない仕事では、能力型の感情知能は成績を正の方向に予測しました。感情労働の少ない仕事では、負の方向に予測しました。
後半が引用されているのを、私は見たことがありません。仕事がおおむね一人で進む技術的なものなら、その場にいる全員の気持ちに人並み外れて敏感であることは、強みというより注意力への課税かもしれません。
彼らのモデルの形も、私は気に入っています。感情は、気づかないことには理解できず、理解しないことには手の打ちようがない。知覚、次に理解、そして調整。ひとつ飛ばすと、次の一段は立つ足場を失います。
あの数字の出どころと、誰かが確かめたときに起きたこと
先ほど触れた、妙な場所の話です。
90%という数字がどこから来たのかをようやく教えてくれた論文は、その数字を解体している論文でもありました。HarmsとCredéはメタ分析の冒頭で6、これから検証する主張を並べています。そのうち2つ。傑出したリーダーと平凡なリーダーを分けるものの90%近くを感情知能が説明すると主張した、1999年の業界誌の記事。そして、感情知能テストの最大手販売元が出した資料で、感情知能と優れたリーダーシップを同じものとして扱ったもの。
業界誌の引用と、営業資料。あなたが前回参加した合宿研修が土台にしていた統計の、これが血筋です。
そのうえで彼らは、感情知能と変革型リーダーシップに関する62の独立サンプルを統合しました。リーダーの感情知能とリーダーの有効性を同じ人が評価した場合、相関は0.59。見事な数字です。とても引用しやすい。
その2つの評価が別々の相手から来た場合、0.12まで落ちました。
同じ構成概念、同じ文献群、変えたのは方法ひとつ。評価者間の一致は感情知能で0.16、リーダーシップで0.14。要するに、どちらについても人の見解はほとんど揃っていません。著者らはさらに、特性質問紙のほうが能力テストより高い妥当性を示したこと、そしてこの構成概念がそもそも妥当なのかについて懐疑的なままの研究者がいることにも触れています。
人気のあるEQテストの多くは、遠回りしてパーソナリティを測っている
2015年、ある研究チームが立ち戻って、自己申告の感情知能はなぜこれほどうまく職務成績を予測するのかを問いました7。彼らの答えは、あの質問紙が、すでに名前のついているものの束をこっそり測っているから、というものです。
具体的には、混合型の感情知能尺度の中身は、能力型の感情知能、一般性自己効力感、自己評価の成績、誠実性、情緒安定性、外向性、認知能力と重なり、重相関Rは0.79。上司評価の成績との相関について彼らが出し直した推定値は0.29で、それまで出回っていた0.47から下がりました。
つまり、いちばん耳ざわりのいい数字を出すテストは、すでに測れていたパーソナリティ特性といちばん絡み合っているテストでもある。それで使い物にならないという話ではありません。ただ、「EQで選考しました」という一文は、響きほど立派ではなくなります。
キャリアへの効果は本物で、遅く、たいていは他人が絡んでいる
キャリアについて最良の統合研究は、150のサンプルと50,894人をまとめています8。感情知能はキャリア満足と0.39、給与と0.21、離職意思とはマイナス0.21の相関を示しました。自分がどれだけ職に困らないと感じているかとの相関は0.03で、これはゼロと見分けがつきません。
給与の数字には、誰もつけてくれない注釈が必要です。これは5つのサンプル、1,446人の上に乗っています。心もとない。著者らはキャリア満足と離職について公刊バイアスの可能性も指摘していますし、統合の対象になった研究はすべて自己申告尺度でした。パフォーマンス型の研究が、分析に足るだけの数がそろわなかったからです。
キャリアについていちばん面白かった研究は、126人を大学からキャリアへと追いかけ9、パーソナリティと認知能力を統制したうえで、10年から12年後の給与を見ています。感情知能は、たしかに給与を予測しました。ただしその効果は、メンターがいるかどうかを経由していて、組織図の上に行くほど強く出ました。同じ筆頭著者による先行研究では、2年後の時点では何も見つかっていません。
つまり、効いている経路は他人です。関係を築き、その関係が、上の立場の誰かに目をかけてもらう形に変わり、それが10年後に効いてくる。仕事そのものがうまくなるという話は、どこにも出てきません。サンプルは小さく、研究はひとつきり。扱いは慎重に。ただ、キャリアというものの進み方には、たしかに合っています。
自分の行動を変えた、ひとつの発見
ここまでの話は、面白いです。ここからの話は、役に立ちます。
2005年、Kruger、Epley、Parker、Ngの4人が5つの実験を行い10、人がメールでトーンをどれだけ伝えられるのかを調べました。参加者は、皮肉、真面目、怒り、悲しみのいずれかのつもりでメッセージを書き、そのうち何通が正しく読み取られるかを予測しました。
154組を通して、送り手の予測正答率は88.8%。実際は70.4%でした。メールだけに絞ると、もっと悪くなります。予測89.3%に対して、実際は62.8%。対面は73.9%、音声のみは73.3%。先行する実験では、メールの正答率はほぼ偶然と同じ水準でした。
自信のほうは、まったく動きませんでした。実際の能力は、経路によって大きく変わる。その能力に対する本人の見積もりは、平らなままです。
2つの細部が、私の中に引っかかったまま残っています。ひとつ、友人同士でも、見知らぬ相手より見積もりが正確になることはありませんでした。よく知っているかどうかは、助けになりません。もうひとつ、そしてこちらが実用的な部分です。ある実験で研究者たちは、自分のメッセージを、意図とは逆のトーンで声に出して読むよう参加者に頼みました。皮肉のつもりの文は真面目に、真面目なつもりの文は皮肉として。過信は、きれいに消えました。その文が自分の意図どおりには響かなくなった瞬間に、ようやくそれがどれだけ曖昧かが聞こえたのです。
関連して、私の好きな知見があります。文字で特定の感情を伝えようとするとき11、送り手の自信は、実際に伝わったかどうかとまったく関係がありません。
言い返してくる研究
この分野に決着がついたふりをするより、食い違いをそのままお見せしたいと思います。
2025年、PollmannとRoosは別のやり方を採りました12。見知らぬ相手とのラボ課題やつくりものの皮肉ではなく、人が実際に受け取ったメッセージを集めて、その送り手本人に、何を言いたかったのかを尋ねに行ったのです。研究1は私的なメッセージが対象で、受け手347人、送り手171人。研究2は仕事と教育の場のメールが対象で、受け手361人、送り手61人。
受け手は、トーンを正しく読んでいました。論文の題が「I get u」なのには理由があります。著者らは、文字は感情の乏しい媒体だという前提に、この結果は異を唱えるものだと論じています。
これで古いほうの研究が帳消しになるとは、私は思いません。私の読みでは、どちらも本当で、対象にしているメッセージが違うだけです。私たちが送るものの大半は、なんということもなく、ちゃんと届きます。誤読が集中するのは、曖昧で、感情が乗っていて、あるいは何か微妙なことをやろうとしている、あの小さな山のほうです。Krugerの参加者は、まさにそれを書かされました。Pollmannの参加者は、スマホに入っていたものをそのまま差し出しました。
そしてその小さな山こそ、人が助けを求めてくる山です。
中立は否定的に読まれ、文末のピリオドは無実ではない
Kristin Byronの理論枠組みは、名前で覚えておく価値のある効果を2つ挙げています13。受け手は、肯定的なメールを中立として読み、中立のメールを否定的として読む。感情は、運ばれる途中で一段ぶん下に流れ落ちます。
実証的な裏づけもあります。否定的に受け取られた実際の仕事のメールを調べた研究は、否定の増幅バイアスを見つけました14。受け手は、中立の観察者よりもそのメールを厳しく評価し、しかもその評価は、否定的な語がどれだけ含まれているかを含め、メッセージの中身とは弱くしか結びついていませんでした。バイアスは、コミュニケーションの空気が悪い職場ほど、そして組織の下の立場にいる人ほど強く出ました。同じメールが、客観的には何の問題もないまま、攻撃として着地しうるということです。誰が読んでいるか、その人の一週間がどう転んでいるかによって。
句読点の研究は規模こそ小さいものの、本物です。一語だけの返信は、末尾にピリオドがつくと、つかない同じ返信より誠実さが低く評価されます15。しかもこの効果は、テキストメッセージでは現れ、手書きのメモでは現れません。追試の研究は、より長く自然なやりとりでもこれを再現しました16。
「Yeah」と「Yeah.」は同じメッセージではなく(日本語なら「うん」と「うん。」です)、その差をつくっているのは、まるごと読み手のほうです。
そもそも訓練できるのか
ある程度は、できます。ただし但し書き付きで。
職場での感情コンピテンシー訓練を対象にした2024年のメタ分析17 は、事前事後の効果量0.44、27件の対照試験で統制群と比べた場合は0.46を報告しています。効果は3か月以上たっても持ちこたえました。教師も、医療従事者も、管理職も、得られるものはほぼ同じ。プログラムが感情知能と名乗っていようが、共感や感情調整と名乗っていようが、大きな違いはありませんでした。
著者らは限界について、気持ちがいいほど率直です。統合した研究群は異質性が高く、方法論の質は低い、と。より早い時期のメタ分析も、似たあたりに着地しています18 [19]。だから正直にまとめるなら、こうしたプログラムは尺度の数字を動かします。その尺度の大半は自己申告です。そして、職場での実際のふるまいが変わるのかどうかについては、わかっていることがずっと少ない。
AIに書かせたとき、何が起きるのか
SubtextはAIのツールなので、私にはあからさまな利害があります。都合の悪い知見から先に出します。
人には見分けられません。4,600人が参加した6つの実験で20、仕事、接客、デートの文脈の文章7,600本を判定してもらったところ、AIが生成した文章を言い当てる正答率は50%から52%でした。当てずっぽうが50%です。さらに悪いことに、研究者たちは、人間の欠陥のある直感に合わせてAIの文章を意図的に最適化すれば、本物の人間の文章よりも高い頻度で人間らしいと評価させられることも示しました。
それでも、疑われることにはコストがあります。同じグループの先行研究では、プロフィールがAIに書かれたものだと思った人は21、その書き手を信頼しなくなりました。
この2つを重ねると、なかなか厄介なものが出てきます。検出はほとんど働かないので、罰は、実際に見破られたことではなく、疑われたことのほうに紐づきます。つまり、どこまでが許されるのかという問いは、証拠ではなく、社会的に、規範によって決まります。
私自身が引いている線は、こうです。ツールは、あなたが本当に言いたかったことを言えるように助けるべきで、あなたが持っていない気持ちを製造するべきではない。外からは見えない違いだとしても、私にとっては実在する違いです。
いま、私が実際にやっていること
読み終えて生き残り、私の書き方に入り込んだものが4つあります。
自分のトーンは、思っているより20ポイントほど悪く着地すると想定する。気分の話ではありません。算数の話です。予測88.8、実際70.4。
大事なものは、間違ったトーンで読んでみる。誠実なつもりのメッセージなら、声に出して、皮肉っぽく。地味に恥ずかしいですが、感嘆符に関するどんなルールよりよく効きます。あの論文の中で、バイアスを完全に消した介入はこれだけです。
本当にネガティブな話は、通話にする。対面も音声も、正確さでメールを10ポイントほど上回りますし、それ以上に大事なのは、何かがまずく着地したときに、その場で修復できることです。記録のために、あとから文面でのフォローを送ります。
「相手が過剰反応している」を、確定した事実として扱うのをやめた。否定の増幅の研究が示すのは、受け手の受け取り方が、メッセージの中身とゆるくしか結びついていないということです。これは両方向に効きます。相手のせいのときもある。メッセージが本当に曖昧で、それに気づけない最後の一人が私だった、ということもある。
ここまでの全部から何かひとつ持ち帰ってもらえるなら、これです。感情知能とキャリアの成功をめぐる大きな主張は、響きほど強くありません。自己申告の上に、そしてしばしば、式の両辺を同じ人が採点した結果の上に建っています。文字のコミュニケーションをめぐる小さな主張のほうが、頑丈で、実際に手を動かせる度合いもずっと高い。「送信を押す前に、間違った声で読み返す」の認定資格を売りに来る人は、たぶん現れません。
無料で、11秒で終わり、私がこれまでお金を払ってきたたいていのものより、後ろについている証拠が確かです。
感情知能を安く見積もりすぎだ、あるいはメールの研究を持ち上げすぎだ、と思うなら、ぜひ聞かせてください。LinkedInにいます。
Samet DurgunはSubtextの共同創業者です。メッセージの感情的なトーンを捉えて、あなた自身の言葉で書き直すアプリをつくっています。ベルリン在住。
出典
本文中のリンクは、一次情報が存在するかぎり、そこへ直接向かっています。
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